2017年3月13日月曜日

民側から考える「プライム企業」と役割

防衛産業に身を置くと、「プライム企業」という言葉を日常的に耳にすることでしょう。

本編では、4回に分けてプライム企業についてお伝えしていきます。

 1 防衛産業におけるプライム企業とは ~辞書的な解釈編
 2 官側から考える「プライム企業」と役割
 3 民側から考える「プライム企業」と役割 (今回)
 4 官側と民側の「プライム企業」の差分 筆者はこう考える




民側から考える「プライム企業」とは 

(官側:以下では防衛省・防衛装備庁・自衛隊を官側と記します。)

プライム企業とは通常株式会社ですし、当然営利企業でもあります。
インセンティブが常にあり続けるように事業を行うことが、
プライム企業の条件になります。
では、防衛産業におけるインセンティブとはどのようなものであるか、
以下の視点でまとめました。

Ⅰ.比較的近年までのインセンティブとは
Ⅱ.浮上した課題 


Ⅰ.比較的近年までのインセンティブとは

かつてプライム企業の市場は完全に国内市場に限られ、
顧客は防衛省(防衛庁)のみでした。
そのため市場調査の対象は単一であって、陸海空自衛隊の運用要求に合わせて
国内生産・ライセンス生産・輸入のいずれかを官民協議の上で決定すれば
良いものでした。

また装備数も想定しやすく、護衛艦を例に挙げると以下の式で簡単に計算できます。

護衛艦(DDx)の数: 4護群(8護衛) + 5個地方 = 52隻(DDx)
※1つのは4隻の護衛艦からなる 


また、単年度で1隻または2隻の建造が行われることが、
5年度毎の中期防衛力整備計画 (通称:中防)で定められます。

そのため企業のリソースである人・モノ・カネ・時間を、安定して必要十分かつ
長期にわたって配置することができました。

もちろん、プロジェクト遂行にあたってはさまざまな問題が発生します。
その中で官側の計画や予算執行に信頼を置き、当然民側もその信頼をより強固にすべく
努力してきました。

計画が安定しているというのは、サプライチェーンの頂点会社としての役割にも
有形無形の力となっていました。
長期スパンで受注があることを理解している一次二次下請けの会社は安心して
製品を製造し提供することができたのです。

このような理由から、インセンティブが常にあり続けるような事業を行うことが
できました。

しかしながらこの時期に、以下を深く検討しなかったことが多くの課題を
生むことになったのです。

その課題とは、
・輸出の検討
・運用形態の急激な変化
・輸入品のブラックボックス化への対応
・国際共同開発
です。


Ⅱ.浮上した課題 

近年浮上した課題として、以下の4つが考えられます。

1.予算・調達制度
近年プライム企業を取り巻く環境の変化として、以下の事項が挙げられます。
 ①防衛予算の縮小
 ②高機能化による製品単価の上昇
 ③FMS(米国からの有償援助)の増額

いずれの要素にしても国内防衛産業の受注額は減少傾向にあります。

また、公正性の追求による競争入札方式が多く行われ、防衛生産技術基盤の
維持向上が難しくなっていることや、超過利益返納方式によりコストダウンによる
インセンティブが働きにくくなり、結果として国際競争力の低下を招いていると
考えられます。

2. サプライチェーンリスク
サプライチェーンリスクは、大きく分けて3点あります。

①製造業者の廃業・倒産
 企業にとって金は血液に相当します。
 その金が回らなくなってきているため廃業・倒産に追い込まれる会社が発生し、
 製品の安定供給ができない場面が出てきました。

②外資によるプライム企業や国内有力製造会社の買収
 グローバル化によって他国企業を防衛装備のサプライチェーンに組み込んだ結果、
 外資に国内プライム企業や有力製造会社が買収されることです。

③情報流出
 グローバル化により他国企業が製造に加わることで、スパイウェアなどが仕込まれ、
 それにより情報流出が起こることが懸念されます。

3.統合運用など運用形態の変化への対応の遅れ

日本を取り巻く安全保障環境の急速な変化により、官側の運用構想は国内産業の
現状を超えた範囲で検討されるようになりました。

これを早期に装備化するため、運用構想にマッチしたFMS(米国からの有償援助)の
増額につながっています。

また同時に、C4IをはじめとするICT製品の早期活用が、運用の重大な要素と
なっています。

4.技術研究の予算と制約

技術研究は2つの視点があります。 

①他国と比較した際の国内研究費用の少なさ
 米欧・韓国等は、中小企業やベンチャー企業等に対し、資源や資金を
 提供しています。
 日本と比較した場合、絶対額もさることながらイノベーション促進にも
 目を向けています。

②国際共同開発に関する制約
 米国ではカタログデータは国防省に、製造方法は民間企業に知的財産権があると
 明確にされています。
 日本は契約の特約上、技術の知的財産権は防衛省にあります。
 そのため国際共同開発を行う場合には、防衛省にどこまで知的財産を出して良いか
 協議しなくてはならず、制約が伴います。


今回はこのあたりで終わりにしたいと思います。
加筆・修正は失礼ながら随時あるかと思います。ご容赦ください。

次回は、
4.これからの「プライム企業」
について記したいと思います。